--名児耶さんはご出身もこの近辺だそうですね。
(「アッシュコンセプト」代表 名児耶秀美さん)僕は100年以上続いた老舗ブラシ屋の次男坊として神田の病院で生まれ浅草寺幼稚園に通い、隅田川のそばで育った生粋の下町人間です。
大学では空間デザインを学んでいました。在学中はデンマーク人デザイナーのペア・シュメルシュアさんのアシスタントとしてウィンドウディスプレイデザインを手伝っていたのですが、彼はとても素敵な人で気取っていない、僕が失敗しても笑顔でいてくれるような和やかな人。「ものを際立たせるためには周りのエアー、空気が大事なんだよ」といつも言っていましたね。
その後百貨店の宣伝部に就職したのですが、父からの依頼で家業を助けるために退職しました。家族経営の小さな会社でしたから、自分が学んできたデザインを活かして試行錯誤を繰り返し売上を作りました。
実家もそうでしたが、工場は「機械があるから商品を作ろう」という発想になりがち。それより生活者が欲しくなる商品を一緒に開発する姿勢を持っていたいと思い、家庭用品総合メーカーへ商品及び会社をデザインしていきました。そうして優秀なプロダクトデザイナーと仕事を重ねるうちに、彼らへの尊敬の気持ちが高まり、恩返しをしたいという思いからアッシュコンセプト設立、そして自社ブランド「+d(プラスディー)」立ち上げに至りました。
「+d」は「こんなものがあったらいいよね」というデザイナーのメッセージを商品化するクリエイターのプラットフォームのようなブランドです。また、より多くのメッセージを世界に届けたいという思いから、クラフトの心を持ちながらも量産ができることにこだわっています。
--「+d」で展開するものづくり以外の活動について教えてください。
墨田区主催の「ものづくりコラボレーション事業」に初期の頃から参加しています。中でも印象的なのは飴屋さんと一緒に作ったニッキ飴。ニッキ飴だけは誰にも負けないと言うので、手作りだからこそつくれるやさしいマイルド、刺激的なストロング、その中間のミディアムと3種類の味を作りました。
「ファクトリーロボ」もそう。金属工場の中を回った時に片隅にふと小さなロボットを見つけて。どうやら工場長が遊びで作ったみたいなんです。「これだ!」と思って、でもこのままではかっこ悪いので(笑)デザイナーと組んでかっこよくして、1枚の金属板から30分ほどでロボットを組み立てられるキットとして商品にしました。
今は、ホテルは値段でなくスタッフの温かさ、そこにまつわるバックストーリーを気に入って泊まるという人が沢山いる時代。僕たちも、自分たちが一番よく分かっている自社商品やコンサルティングを行なっている商品のバックストーリーを伝える場が必要だと感じてデザインプロダクトショップ「KONCENT(コンセント)」をオープンしました。
--店内に置かれた商品は細部へのこだわりから生まれる洗練さと、人を笑顔にするユーモアが共存しているものばかりですね。
デザイナーというと気取ったイメージがあるけれど、それでは生活者と同じ目線で「すてき」を共有し合えない気がして。僕たちは「おしゃれ」「かっこいい」よりも、もっとフレンドリーに本音で関係を作ることを大事にしたいと思っています。それが下町気質というものかもしれません。
自分たちでお金を払って使いたいと思うものを作る。人間らしく、お互いの目線を合わせて語り合えるような人たちがこのエリアには大勢いるんじゃないかなと思います。
--名児耶さんご自身もデザインに関わられることはあるのですか。
僕はデザイナーではありませんが、デザインはしていると思います。全体のバランスを見る僕とミリ単位のディテールに魂をこめるプロダクトデザイナー、お互い違う視点を持ってるから良いものづくりができるんでしょうね。
誰が作るかよりも、誰がどのように商品を使ってどう生活するかが気になります。主役は商品を使う生活者です。そのために工場やデザイナーという名脇役たちがいて、彼らと良い仕事をすると見て楽しい、使っても楽しいプロダクトが生まれると信じてます。