--先ほどトーキョーバイクの自転車に乗ってみたら、自転車に乗っていることをつい忘れてしまうような道にフィットする乗り心地でした。
(「トーキョーバイク」代表 金井一郎さん)東京って広いようで実は自転車で走ると意外と狭いんですね。こんなに可能性があるのにもったいない、それなら東京の街を走るための自転車を作って売ろうと考えたのがトーキョーバイクを始めるきっかけでした。谷中にはオフィスを構えて14年、お店を構えて9年になります。
舗装されていて坂道や信号が多い東京で乗るうえでの機能性、乗り心地が軽快であることを大事にしています。上野・谷中は緑が多くて空が広いので、乗ってるとあたりをよそ見したくなりますよね。あとは人がなんだかゆったりのんびりしていて急いでる人があまりいない。穏やかで、世の中の速い流れから一歩身を引いて時代を眺められるような場所というか。
--トーキョーバイクが自転車の先にあるライフスタイルを発信していることと、谷中の空気感がリンクしている気がします。
谷中エリアは昔から東京藝大の学生や東大の弥生キャンパスに来ている留学生、アーティストが多く、多様性、自由さが街の空気に活きていて、それを街の人も当たり前に感じている。外から来た人が後からお店を始めても温かい目で見守ってくれる良い距離感や人間関係があります。「人生もっと気楽に素直に、シンプルに生きられるんだよ」という考え方、生き方が近しい人が自然と集まってくる独特の匂いがあります。そういった目には見えないもの、見えるもの含めて私たちが感じたことをトーキョーバイクが提供する体験を通して伝えたいと思っています。
例えば細い路地の住宅街に入ってもほとんどの家は庭はないのにみんな家の前に花や植物を置いてるじゃないですか。路地裏を歩いてもいつも季節を感じることができる。それって昔からあるものを自然に受け入れてきたこの町の人の美意識なんでしょうね。必要以上に欲せず自分の満足をわかっているからこそ日常の心地よさを人にも分け与えられるんだと思います。
--外をまわる自転車で街を体験してもらう一方、お店の中にはカフェが併設されているほか、生活雑貨の販売もされているんですね。
自転車を売るだけでなく、旅の前後に楽しんでもらえることもあるのではと思って始めました。例えば朝の出発前のコーヒーだったり、自転車で一日まわって帰って来たあとに飲むビールだったり。生活雑貨はトーキョーバイクにゆかりのある人々やスタッフが気に入った商品を置いてます。海外から来られるお客さんが多いので、よくある品でなくトーキョーバイクならではのストーリーのあるお土産を持って帰ってもらえたらという思いでセレクトしています。
--自転車の一番の魅力、旅の魅力はなんだと思いますか。
自転車はただの移動の道具ではないということ、この街に来て一層感じたことです。乗っている人の姿が魅力的であることも大事だから、トーキョーバイクの自転車は服の色やかたちを選ぶのと同じように自分が自転車を使ってる姿を想像しながら選んでほしいと思っています。
トーキョーバイクのウェブサイトには「旅人は住む人のように、住む人は旅人のように」という言葉があります。旅をする人にはガイドブックには載っていないような、その街の人が「いい」と言う場所に行ってほしい。逆に地域に住んでいる人が自転車に乗ったら、いつもとは違う道を通って新たな発見をしたり、日常の中で「旅」をしてほしいと思っています。乗っている途中にある予想外のこと、何かに出会った時の喜びが楽しいじゃないですか。雨に降られたらそれも楽しいかもしれない。トーキョーバイクはそういった旅の魅力を知るきっかけになれたらと思っています。