--山崎さんが蔵前でALLOYを開業するまでの経緯を教えてください。
(「ALLOY」代表 山崎勇人さん)僕は埼玉県秩父市出身で、専門学校でインテリアデザインを学んだ後は地元の金属系メーカー兼設計事務所で10年ほど働いていました。その後イタリアに留学、並行してデザイナーのアシスタントを経験しました。帰国後に独立しALLOYを始める際にこのエリアを選びました。
「ALLOY」は直訳すると「合金」という意味です。僕が金属系メーカーに勤めていた背景と「すべてを結びつける、さまざまな要素を混ぜてひとつのものを生み出す」という活動の原動力をこの言葉に込めています。 このショップ兼スタジオには自社デザインプロダクトの販売スペースのほか、設計業務を行うデスクと商品の仕上げなどを行うちょっとした作業スペースがあります。
6年前に蔵前に拠点を設けた当時は知り合いが一人もいませんでした。よくそんな場所に来たな、勇気があったなと自分でも思います(笑)現在は住まいも仕事も蔵前、とても狭いエリアで生活する日々。この6年でみるみる静かだった街が賑やかになり、また違った側面が出てきたと感じています。
--さまざまな素材を扱いプロダクトデザインを手がけられていますが、デザインするうえで心がけていることはありますか?
僕のものづくりへの興味の入り口がファッションデザインだったので革や繊維などの素材も好きですが、前職の経験もあり金属製プロダクトを作る割合が多いです。マテリアルや用途を問わず、ドイツの工業デザインに影響を受けつつ自然界に存在する形状を意識したミニマルなデザインを心がけています。作ったものにロゴを入れていないにも関わらず「山崎さんが作ったんですね」と気付かれることがあるのですが、自分が表現したいことに一貫性があるからだと思います。
今後はより自社デザインプロダクトのラインアップを充実させ、そして不定期営業のショップを開ける時間も増やし、自分の思いを伝えることに力を入れていけたらと考えています。
--このエリアは金属加工業の職人さんや工場が多く、ALLOYのものづくりを行ううえで理想的であるといえると思います。その中でも特に意識していることはありますか。
ものづくりを進める際は職人さんと直接顔を合わせること、そして僕自身がエンジニアだったバックグラウンドも活かし、共通言語を用いて目線を合わせ会話することを心がけています。
というのも、ものを作る時はデザイナーから職人さんへスケッチや仕様書を提出するのが通例なのですが、それだけでは全く想像と違うものができてしまうことがよくあるんですね。その原因のほとんどはコミュニケーション不足によるもの。仕様書の情報からは読み取れないちょっとしたニュアンスを共有するには、直接会ってお話することが欠かせません。この姿勢は「すべてを結びつける」というALLOYの哲学にも通じると思います。
生活の中でよく行く場所と言ったら、やはり台東区・墨田区内の職人さんのもとです。「これはできないか」と相談したり、細かな仕上げの最終調整をしたり、図面では表しきれない曲面の確認などをしたり。最初はよそ者扱いされていた時期もありましたが、コミュニケーションを重ねて行くうちに徐々に「この人は分かるぞ」と認めてもらえて、次第に打ち解けていきました。
--そのようなコミュニケーションを取ることができる環境というのは、このエリアのもともとの特色にも通じそうです。
この辺りは代々この街に暮らす地場の人たちが多いです。ALLOYのお店を作る時に街の大工さんや電気屋さ んに施工をお願いしたら「新しく何かやろうとしている人がいる」という話とともに人のネットワークも一 気に広がっていきました。そういった人との結びつきが広がりやすいのが特色だと思います。一緒にALLOYのものづくりをする職人さんとも食事をしに行くほど仲良くしてもらってます。
昔から東京に対して抱いていた「ドライで人同士があまり関わらない、隣に住む人が誰か知らない」という イメージを覆される場所です。大人になってから一つのところに長く住んだことがないのですが、このエリアには予期せぬサプライズやワクワクがあってとてもあたたかい。 もっと長くいたいと思える街です。