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茂上工芸:温故知新の精神で江戸指物を、地域の未来を受け継いでいく

2019.01.31

--蔵前三桂町会の町会活動にも関わっていらっしゃる伝統工芸士、茂上豊さん。この地域は茂上さんも従事されている「江戸指物」の職人さんが多いエリアだったのでしょうか。

(「茂上工芸」茂上豊さん)昔台東区は入谷を中心に材木屋さんが多くあり、私の工房がある蔵前や小島、三筋周辺は木工職人が比較的多かったんです。「江戸指物共同組合」に登録している業者は現在10名ほど。私がこの業界に入った1970年代半ばに比べて半分以下の数字に減ってしまいました。
「茂上工芸」は祖父がこの土地に創業して百年以上経ちます。祖父をはじめ父方の家族は東京大空襲でほぼ全員亡くなったので会ったことはありません。その中で幸いにも出征していた父と学童疎開していた伯母は助かりました。工房の建物も全焼したのですが、奇跡的なことに土管の下に保管していた仕事道具だけは焼けずに済みました。だから戦争を生き延びた父が帰ってきてもすぐに仕事を再開できたのです。
父は江戸指物が国の伝統工芸品に指定されるよう尽力した人物です。そんな父の姿を目にしながら、私もいずれ工房を継ぐのだろう、という意識を自然に持ちこの道に入りました。そこから40年余りこの仕事に従事しています。

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--「指物」は釘を一切使わず「ほぞ」と呼ばれる凹凸の切り込みを施した木の板を組み合わせて作る工芸品です。京都の「京指物」、静岡の「駿河指物」など各地の指物がある中で、江戸指物の特徴はなんでしょうか。

「江戸の粋」を重んじている点です。他の指物と比べて薄い板や細い棒を用いており、一見華奢で繊細に見えるのですが、実は見えないところでしっかり堅牢に組んである。これが江戸指物の特徴であり「粋」の美学そのものです。木目の色味や風合いも最大限活かすようにしています。
指物で一番難しいのは、ほぞ組みを作ることです。接着力を強めるために全て穴の大きさや形を変えてるんですね。一ミリずれただけでほぞが入らなかったり、少しでも固い感触があるのに無理してはめ込もうとすると板が割れてしまうこともあります。全てを精緻に正確に作り上げないと、使っていくうちにガタも出てきてしまいます。

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--江戸指物の制作体験ワークショップも不定期に開催されています。その理由はなぜですか。

指物は高級家具に使われている技法という立ち位置もあり、一般的に認知度が高くありません。以前は問屋を通じて商品を制作販売していましたが、問屋も衰退したので今度は自分たち自身で活動の発信をする必要が出てきました。より多くの人に、歴史や制作背景を含めて現代の江戸指物をしっかり伝えていきたいと思い開催しています。

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ワークショップに参加するのは修学旅行で来た小学生・中学生、外国人観光客の方などです。かんなを持ったことがないという人がほとんどで、特に外国人の方は生活空間や習慣のことなど、文化の違いに一番驚かれます。

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--江戸指物が使われている生活は、日本人にとっても馴染みの薄いものになってきていますね。

やっぱり和室空間で使う家具や道具が多いですからね。例えば鏡台は畳の上に正座してお化粧するときに使うもの、フローリングが多い現代の生活空間には置く場所がありません。すでにクローゼットが備え付けられた部屋に箪笥を買っても部屋が狭くなってしまうだけ。生活空間・習慣の変化によって指物の需要もなくなってきてしまいました。
だからこれからの課題は、現代の生活に寄り添い若い世代の方々にも手の届きやすい品物を作ること。そのためには昔からの技法を受け継ぎつつ新しいものを作るバランス感覚が必要だと思います。これまでにも外部のデザイナーや簾屋さんなど他業種の方とのコラボレーションを通して、木材の意外な一面を発見できるような、発想の転換のある商品を作ることができました。他にも木製のハンドバッグやネクタイなど、これまでになかった商品も制作しています。

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--昔からのものを受け継ぎながら新しいものも取り入れる「温故知新」の精神は、この地域の気風にも似たところがあると感じます。この街に住み続けている茂上さんからすると、どのような変化を感じますか。

三筋・小島、鳥越あたりにたくさんあった中小規模の工場が減ってきましたね。昔は小島のあたりは帽子の縫製屋さんが多かったんですよ。
今はマンションに住む人数の方が多くなっていて、そうすると街に対する人の考え方や文化も変わってきますよね。お祭りに対する受け取り方が変わっていると感じます。この近辺は鳥越祭の氏子ですが、やっぱり夜祭と言われる所以といいますか、神輿が神社に入って行くときに提灯をつけている様子がとても綺麗なんですよね。それが鳥越祭の醍醐味なんじゃないかなぁ。ずっと続いていってほしいものです。
新しい人やお店が増えると新しい考え方も出てくる。それも取り込みながら、昔からずっと繋いできた文化を一緒に育てて楽しい街にしたいですね。これからもこの精神が地域の空気を作っていくといいなという思いはあります。

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Profile

プロフィール
Mogami Kogei
茂上工芸
1912年、江戸家具を得意とする指物師に師事した茂上兵次郎氏によって創業。第二次世界大戦により茂上工芸も壊滅的な被害を受けるが、生き残った二代目・豊二郎氏が修行を続け、跡を受け継ぎ再建した。その後、豊二郎氏が同業者たちと協同し「江戸指物協同組合」を立ち上げ江戸指物が『国の伝統工芸品』の指定を受ける道を作るなど、江戸手工業文化の伝承と産業発展に大きく寄与した。三代目・豊さんは1995年より引き継ぎ、「江戸の粋」を守り続けている。
sasimono.ciao.jp
東京都台東区蔵前4-37-10
ノーガホテル上野から徒歩15分、自転車で6分
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