--Bistro NOHGAでもお世話になっている相沢米店。店主の相沢さんは「台東区第一号の五つ星お米マイスター」ですが、これはどんな資格なのでしょうか?
(「いなりちょう相沢米店」店主 相澤敏幸さん)日本米穀小売商業組合連合会がお米の普及活動の一環として主宰している、いわば「お米博士」のような資格です。お米屋の専門知識をより多くの消費者にも持ってもらいたいという目的から作られました。
ここには近隣の古くから付き合いのある飲食店、個人のお客さんも大勢いらっしゃいます。うちみたいに、精米の度合いまで細かにお客さんのご要望にお応えして商売しているところも珍しいんじゃないかな。気がついたら常連さんになってるお客さんも多いです。
「この前何買ったっけ?」ってお客さんに聞かれた時に遡れる名簿があるんです。500人分くらいあるのかな、年に1度だけいらっしゃるお客さんのこともちゃんと書いてます。Bistro NOHGAのシェフの方の分もありますよ。これが10枚、20枚と溜まってくお客さんもいる。たいしたものではないんだけど...
--いえいえ、この量はすばらしい。お米のことを聞いたら生産者や育て方のことまでなんでもお話してくださる相沢さんですが、最初からこのような営業の仕方をしていたのですか?
僕は婿養子で相沢米店を継いで30年ほど経つのですが、昔からこのようにお店をやっていたわけではありません。以前はお米屋さんって、お客さんが来て当たり前といった具合に「ください」と言われて売る以上のことはしない方が多かったんです。婿養子に入ってから初めてお米の仕事に関わった自分は驚きました。スーパーでお米が買われるようになりお米屋さんがどんどん減っていった時に、お客さんの要望にもっと寄り添うような売り方をしなければ後がないと思って。
--その後の試行錯誤の中で、生産者の方と繋がりをもつようになるきっかけはありましたか。
特に大きなきっかけになったのは、90年代半ばにホームページを作ったこと。それを全国各地の生産者が見てくれたことで、繋がりができるようになったのです。わざわざ島根からお米を売りに来てくれた方もいました。そこから産地に自ら出向くようになり、生産者の方と会ってお話するようになりました。交流を持つ中で、さらにしっかりとお米の知識を深めなければいけないと思いお米マイスターの資格をとりました。
お米マイスターになったと言っても、僕は田植えをしたことがあるくらいで生産者に比べたらまだ分からないこともたくさん。だから全国の色んな産地を見てまわりながら、心で通い合う関係になれるようお話するようにしています。美味しさの秘密を聞いても生産者によって答えはいろいろです。「土の成分で足りないのを肥料で補うと美味しくなるんだよ」と言う方もいるし「水とお天道様のおかげ」と言う方もいます。
--お店に所狭しと積み上げられたお米。説明を読んでいくと、無農薬米にこだわってお取り扱いされていますね。
無農薬米は自然と闘う部分が多くて作るのがとても大変ですが、その分味は歴然と美味しくて豊かなんです。
とある無農薬米の生産者の田んぼに行った時、泥を舐めさせてもらったら甘くて美味しかったです。雑草が生えやすくなって手入れに時間もかかるけど、稲が生える土が柔らかいままで、泥を舐めても問題ない。このように作り方にこだわった生産者のお米と、生産者との会話で得た情報を一緒に買ってもらうつもりでお客さんに紹介したい、という気持ちでいつもお話しさせていただいてます。ある程度うちに通うようになると、どんどんお米と生産者のことが分かるようになってきますよ。
--お客さんとお米の出会いをフォローしているんですね。
「うちの○○はどこの○○よりも美味しい!」と勧めることもありますが、炊きたてが美味しいのはどのお米も一緒。だから冷めても美味しいと自信を持って言えるのがうちで取り扱っているお米です。
上野で商売している人は全員気づいているのですが、お客さんに愛されるお店はお米を大事にしてるんです。炊き方や保存の仕方、よそい方に一手間かけて、お米がキラキラ輝くようにお客さんをおもてなしている。そういう商売のやり方がこの地域にはしっかり残っていますよね。