--藤本さんがWOODWORKに携わるようになった経緯はなんだったのでしょうか。
(「WOODWORK」運営 F.Maker 代表取締役 藤本雅也さん)僕が通っていた中学はWOODWORKの前身である下甚商店という材木屋の近くにありました。当時から併設の「ウッドワーク」というショップがあったので、ずっと存在は知っていたんですね。ホームセンターがそう多く普及していない時代に、ウッドワークは一般のお客さん向けに材料をその場で切ったり特殊な加工をしてくれる珍しいお店でした。当時は奥に板材やベニヤなどの材料置き場があって、表に小さなDIYショップがあって、工場は今と同じで地下にありました。
家具デザインを学ぶために専門学校に進学した時、課題制作のために木材が必要でウッドワークに客として通うようになりました。専門学校を卒業する2000年代前半は、大手メーカーではない小規模なオリジナル家具の店が、ブランドを作ったり、空間を作ったりするというムーブメントがありました。僕もそれに憧れ、ウッドワークであれば実現できると思って職人として就職しました。
--現在のWOODWORKにはショップスペースがあります。このような形態に変化したきっかけはなんでしょうか?
時が経つにつれてホームセンターも普及し一般のお客さんが木材を手に入れやすくなった反面、町の材木屋は減る一方で、下甚商店が以前の業態を続けても伸びしろがないと危機感を覚えるようになりました。でも、工場・材料・お店という要素はすでに揃っていて、家具のデザインを学んで工場で制作の経験を重ねた自分もいる。新しいことを始めるポテンシャルはすでにある理想的な状況だったんです。そこで2007年に家具屋として「WOODWORK」を打ち出し、店舗内装も一新し育てていくことにしました。
最初は地下の工場とお店を明確に分ける方向で考えていたのですが、お客さんが職人の姿や自分の家具が作られる背景を身近に感じられるよう、もっとオープンにした方がいいんじゃないかという意見があって。それで工場もお店の一部としてみなすようになりました。今でも個人・法人のお客さん問わず、制作現場に足を運んでいただいて実物を目の前にしながらコミュニケーションを取っています。
--この他にも店舗入口にはコーヒースタンド「ウェルカムコーヒー」がありますが、これができた理由を教えてください。
「WOODWORK=家具屋・工場」の次のステップとして何ができるか考えた結果、敷居の高いイメージのある家具屋をもう少し身近に感じることができて、なおかつ職人とお客さんが混じり合う場所として作りました。こういうコーヒースタンドがあれば職人たちが休憩に使ったり、家具のオーダーをいただいたお客さんにも来店の合間にご利用いただけます。ごくたまに、店頭のスタッフが忙しい時は職人が工場から上がってきてお客さんの注文を聞くお手伝いをすることもあるんですよ。お仕事をされたり、カフェとして利用されていく常連さんもいらっしゃいます。その方々にもコーヒーを飲みながら家具を触ってもらうサイクルができるので、その先で何かのきっかけになればと思ってます。
--作り手と買い手が混じり合う空間というのは、台東区の地域性にも重なりますね。
本来は混じり合ってもおかしくない人たち同士のはずだけれど、日本だとどうしてもきっちり分ける傾向にあるじゃないですか。逆に昔はそうではなくて、作り手と買い手がもっと垣根なく自然にコミュニケーションをとっていたんじゃないかなという気がして。
このエリア独特の価値観というのは、確かにあると思います。この辺りは、昔は長屋が多い場所で周りとの繋がり、コミュニケーションがとても強かったはずの地域です。当時の名残で今も作り手の「作る・売る」が直結してる場所が多くて、それがこのエリアの緩やかな空気感を作り上げているというのはありますね。
--「WOODWORKらしさ」というのはなんだと思いますか。
チームワークから来るフラットさ、そして常にこの場所でしかできないこと、場所の付加価値を意識していることでしょうか。基本的には家具屋ですが、異なる持ち場を持ったスタッフ全員で「何をしたらもっとよくなるか」を話し合って一つ一つの物事に取り組んでいます。例えばお客さんからのオーダー家具一つにしても、ご要望やテーマに対して全員で何度も話し合いを重ねてブラッシュアップして作っています。お店の運営やイベントの開催にしても全てそうで、そういった温度感が家具作りやWOODWORKというお店のあり方にも浸透していると思います。