--「松屋」は代表の遠藤さんがご実家の肉屋を継ぎ、2017年にリニューアルオープンしたお店ですが、それまでの経緯を教えてください。
(「浅草鳥越おかず横丁『松屋』」代表・焼豚焼士の遠藤剛さん)実は最初から店の仕事を手伝ってたわけではなく、大学卒業後は出版社へ入社して雑誌の編集をしていました。父が倒れ、自分の仕事と並行して店を手伝っている時期もあったのですが、今度は母が怪我をしてしまい、結局6年ほど店を閉めることに。
正直なところ、最初は商売自体への興味があった訳ではありません。でも祖父の代から続いたお店をなんとかしたいという思いは強くあって。作り置きせず注文を受けてから揚げるコロッケやメンチ、トンカツ、自家製マヨネーズで作ったポテトサラダ、そしてもちろん焼豚...全部子供の頃から松屋の味としてずっと食べてきたものです。それら伝統の味をこれからもお客さんに届けていきたいと思い、まずは、レシピを受け継いだ焼豚に特化して2017年春に営業開始しました。店内も改装しましたが、精肉店時代の冷蔵庫の木製扉などは敢えて残しました。天井のフックは元々大きな枝肉を吊るしていたんですよ。
--なぜ焼豚を中心としたお店にしたのでしょうか?
焼豚で使う特製の旨味辛口醤油たれは、さらりとした食感に唐辛子が効いて少しピリッとしているので、白いご飯にとってもよく合うんです。精肉店の時代から焼豚は長い間売っていますが、なかなか食卓で主役のおかずになれないんです。そこをなんとかしてメインに格上げしたいと思ったのがきっかけです。
基本的なレシピは先代からのものをベースにしていますが、肉の選別や使う調味料、作る工程にこだわり日々進化させています。「焼豚焼士」と名乗っているのも、焼豚を極めていきたい強い気持ちからです。
--毎週土曜日13時に営業開始後、限定50本はすぐに完売してしまいます。なぜこのような営業販売の仕方になったのでしょうか?
開店前に考えたことはできたてを食べていただきたいということでした。仕入れがあって、仕込みから販売まで全て一人でやっています。美味しいできたて焼豚を食べてもらうことを思うと、まずは、一週間に一度の営業で限定50本完売閉店を目標にスタートしてみるのが良いのではと考えました。ありがたいことに雨の日も雪の日も買いに来てくださるお客様がいらっしゃいます。みなさんのことを考えると開店前になるとアドレナリンが出ちゃいます(笑)商売人の血が流れてるからか完全にはまってしまいました。お客さん一人一人と対面しながら販売するのが本当に楽しいんです。お客様は地元の方、散策ついでに寄ってくれる方、昔からの味を知ってくれていて母を訪ねてくる方などです。
--「松屋」があるおかず横丁は、周辺に工場の職人さんが多かったために発展した場所だとか。
ここは古くからある商店街で、今でこそ大江戸線が通ったりしていますが、以前はどの駅に行くにも少し時間がかかる陸の孤島のような場所だったんです(笑)。この辺りは昔から忙しい職人さんが集まっているので、彼らがここでご飯のおかずを買うようになって...ということでおかず横丁と呼ばれるようになったんです。交通アクセスの良い場所を中心に作られる商店街とは成り立ち方が違いますね。
--お住まいもお店の近くにあるとのことですが、この地域の特徴はなんだと思いますか?
まだまだ近所との付き合いが残っているということかな。もう40代後半になる私でも、小さい頃から知ってるご近所さんから「剛、ちゃんと仕事してるのか!」なんて下の名前で声をかけられることも(笑)そういうことに慣れてしまっているので、なんだか居心地がよくて安心します。住んでみるとわかると思うんですが、案外静かで、大通りから一本道を入ると長屋のような雰囲気もあって気持ちのいい場所ですよ。
--これからお店としてやっていきたいことはありますか。
この地域は、新しく若い住民も増えてきてどんどん面白くなってきています。お店を続けながら、みなさまへ街の魅力も伝え、地域に関心を持ってくれる方々へ何かお手伝いができたらと思っています。あと、いずれ親の時代に売っていたコロッケやメンチも作ることができたらいいですね、自分でもあの味をもう一度食べたいので(笑)。自分が食べたいと思うものを作る、これが一番の原動力になっているのかね。